潮汐力

潮汐力(ちょうせきりょく、英語:tidal force)とは、重力によって起こる二次的効果の一種で、潮汐の原因である[1][2]。起潮力(きちょうりょく)とも言う。潮汐力は物体に働く重力場が一定でなく、物体表面あるいは内部の場所ごとに異なっているために起こる[1]。ある物体が別の物体から重力の作用を受ける時、その重力加速度は、重力源となる物体に近い側と遠い側とで異なる[1]。この差により、重力を受ける物体は、重力源の方向には引き伸ばされ、それに垂直な方向には押し縮められるような変形を受ける[1]。理想化した球形の物体では、重力源に近い側と遠い側の2ヶ所が膨らんだ形に変形しようとする[2]。
重力の差によって生まれる潮汐力
[編集]ある重力場の中に有限の大きさを持つ物体があると仮定する。この時、物体表面もしくは内部の任意の位置での潮汐力による加速度は、その位置での実際の重力加速度ベクトルから物体の重心での重力加速度ベクトルを引き算したものになる[1]。
この時、物体は必ずしも公転していなくても潮汐力は発生する。例えば物体が重力場の中を一直線に自由落下するような場合でも、物体の各部分に働く重力が場所によって異なるため、潮汐力の作用を受ける[1]。
ある物体が他の物体の重力場によって受ける潮汐力は、物体の大きさが二つの物体間の距離に比べて十分小さい場合、以下のように近似できる。ニュートン力学では、潮汐力は重力加速度の空間的な変化によって記述できる。ニュートンの万有引力の法則を線形近似すると、力を及ぼす物体 A が他方の物体 B に及ぼす潮汐力は、近似的には A の中心からの距離の3乗に反比例する[1]。両者の中心を結んだ直線 L 上では、潮汐力の大きさ Ft は以下のようになる[1]。
ここで G は万有引力定数、M は重力場を作る物体 A の質量、m は A の重力場によって潮汐力を受ける物体 B の質量、R は二つの物体の距離、r (≪ R) は物体 B の中心からの距離である。物体 B に働く潮汐力は、物体 A に近い側と遠い側の両方で、B の中心から見て外向きに働き、これによってこの二つの点は外に膨らむことになる[2]。
潮汐力は2物体を結ぶ直線 L から離れた位置についても計算できる。L に垂直な方向では潮汐力は内向きに働き、線形近似では、その大きさは直線 L 上の外向きの成分の半分となる[1]。
潮汐力の効果は、中性子星やブラックホールといった、大きな質量を持った小さな物体の近くでは特に顕著になる。これらの天体に落ち込む物体は、近い側と遠い側で受ける重力の差により、潮汐変形を受けて細長く引き伸ばされることがある。これはスパゲッティ化 (spaghettification) と呼ばれる[3]。また、海の潮汐では、潮汐力を受ける物体は海水を含む地球であり、力を及ぼす主な天体は月と太陽である[2][1]。潮汐力はまた、天体の自転と公転の同期 (tidal locking) を引き起こす[4]。
脚注
[編集]- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Moebs, William; Ling, Samuel J.; Sanny, Jeff (2016-09-19). “13.6 Tidal Forces”. University Physics Volume 1. OpenStax 2026年5月3日閲覧。
- 1 2 3 4 “Tides”. NASA Science. NASA (2026年2月12日). 2026年5月3日閲覧。
- ↑ “What Happens When Something Gets 'Too Close' to a Black Hole?”. NASA Science. NASA (2021年11月26日). 2026年5月3日閲覧。
- ↑ “Tidal Locking”. NASA Science. NASA (2026年2月12日). 2026年5月3日閲覧。